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  ミニスカート   63 

圭一は待ち合わせの時間ちょうどに店にやって来た。
私はカフェの窓から休日の家族連れなどでごった返す街の様子をぼんやり眺めていた。

「すみません。遅くなりました。」
ふいをつかれた形で目の前に現れた彼を見て、私は何故か慌てた。
ネイビーのポロシャツに細身の白いコットンパンツの圭一は、ゆるいウェーブのかかった短めの黒髪をかき上げながら微笑んでいた。
シトラス系のコロンの香りが微かに漂った。

「いつもと雰囲気が違いますね。」
真向かいに腰かけた彼の真っ直ぐな視線に動揺する気持ちを隠す為、私は淡々と聞き返した。
「あなたこそ、工場にいる時と大違い・・・。」

圭一はガラステーブルの下の私の足にちらりと目をやると、静かに呟いた。
「ミカさん、綺麗っすね・・・。」
彼のうっとりとした表情に私はどきどきした。

すると、二人同時にある事に気がついた。
「あ・・・!」

紺色のノースリーブのブラウスに白いミニスカート。
私は二人の服の色が同じ組み合わせなのに驚いた。
おまけにスニーカーとパンプスも同じ白だった。

「まるっきりペアすね。」
「もう・・・ やだ。」
可笑しくて、二人して暫らく笑い続けた。

店を出ると、ショッピングモールに向かって私は彼と肩を並べて通りを歩いた。

圭一は清潔で華があり、人目を引いた。
「ミカさん、見られてますよ。」
「違うわよ、あなたじゃない・・・。」
彼は自分が目立っている事に気づいていない様子だった。

それから私達はショッピングモールの店を見て回った。

「これ、似合いますよ。」
圭一は鮮やかなオレンジのワンピースを私の首に当てた。

「いいわよ、私の事は・・・。」
私が苦笑して制しても、彼は楽しそうに繰り返しいろいろ運んで来た。

アクセサリーの店で、私は指輪が並んでいるのを見つけた。
様々なデザインの、色とりどりのアクリルのリングがあった。
私はひろかずに指輪をもらった時の事を思い出していた。

「気に入ったの?」
近づいて来た圭一は、私が手にとってじっと見入っていた薄いピンクのリングをさっと奪ってレジに向かった。
「プレゼントなんです。」
店員にそう告げると、彼は振り向いて微笑んだ。

私は呆気にとられて何も言えなかった。


買い物が終わって外に出た二人は、再び肩を並べて歩いた。
すれ違う人が振り返った。
ペアな服と年の差が人の目にどう映っているのかが気になった。
私は気後れして圭一から少し遅れ始めた。

「どうしたの?疲れちゃった?」
圭一は私の手をとって引き寄せ、立ち止まって私の肩をそっと抱いた。
私は鼓動が早くなるのを感じた。

「ねえ・・・ プレゼント、あれでいいの?」
怪訝な顔の私に彼はにこやかに笑って言った。

「気に入ってたみたいだから・・・。」
そう言って、私に指輪が入った紙袋を差し出した。

「え? どういう・・・ 」

圭一は真剣な表情で言った。
「彼女とは、アルバイトを始める少し前に別れたんだ・・・。」


私は驚き、どういう事なのかを理解しようとして頭の中がぐるぐる回った。



(続く)









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  ミニスカート   64 

「どうして・・・ 」

私は混乱し、戸惑った。
圭一は真っ直ぐ前を向いて言った。

「人を好きになるのに理由なんているのかな。」

辺りは少しずつ暮れなずみ、人混みに紛れて二人は黙ったままゆっくり駅に向かった。

ふと立ち止まった圭一につられて足を止めた私は、彼の視線の先に目を向けた。
路地の奥にホテルの淡い灯りが見えた。

圭一は私を切ない目で見つめ、無言で誘った。
(だめよ・・・)
私も何も言わずに首を振った。

すると彼は悲しそうにうつむいた。


駅の反対側のホームから、彼は電車の中の私をじっと見ていた。
眼差しが突き刺さる様な気がした。


圭一は私と会った日の前日に工場のバイトを辞めていた。
彼の場所で次の日から見知らぬ若い男が荷詰めの作業をしていた。

昼休みに土手に上ると、強い日差しを浴びて周辺は眩しく照り返していた。
日陰が見当たらず、私は程なく工場に戻った。

食堂で缶コーヒーを口にしながら、私は圭一の事を考えた。
私は彼に、単なる同僚以上の想いを抱いていた。

「また会ってくれますか?」
別れ際の彼の言葉に私は何も返事をしなかった。

圭一は寂しそうにホームに降りる階段へ消えて行ったが、いつでも連絡は出来る。
私はアドレスを変えるつもりは無い。
可能性を残しつつ、私は圭一を手放したのだった・・・。

でもひょっとすると、誰に対してもそうして来たのではないだろうかと私は思った。
どうして飽き足らずに、次々求め続けてしまうのだろうか・・・。
それは、満たされぬ寂しさから自分を守る手段の様に思えた。

愛されて生きている事を実感し、自分の存在の意味づけをしてそこに価値を見出そうとしているのだった。


完璧な愛など存在しないから、またその「足らず」を補うのを繰り返しているに過ぎなかった・・・。



(続く)
















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