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  ミニスカート   58 

タイムカードを押して外に出ると、工場の門のあたりでこっちを向いて立っている背の高い若者が目に付いた。
私に気づくと圭一は大きく手を振った。

「駅まで一緒にいいですか?」

「いいけど・・・。」
私はちらりと後ろに目をやった。
少し離れてついて来る三人組の女が私達を見てひそひそしていた。

「ごめんなさい。 まずいですね。」
圭一は慌てて離れようとした。

「いいわよ、ほっとけば。」
私は彼の袖を引っぱった。

「隣で仕事してる人なの。 同年代なんだけど、話が合わないのよ。」

「ミカさんとは種類の違う人達ですね。」
そう言って圭一は首をすくめた。

工場の長い塀と川沿いの堤防に挟まれた細い道路はそのまま駅へと続いていた。

圭一と並んで歩いていると、向こうの方から幅の広い大きな車が近づいて来た。
私は彼の後ろに回り、車を避ける為に立ち止まった。
その車はゆっくり近づくと、私の横でぴたりと停まった。
不思議に思っていると、助手席のウインドウが下りた。

若葉の照り返しで運転席の男がはっきり見えた瞬間、私は自分の目を疑った。

「ヨシアキ・・・。」

驚く私を見て、圭一は何かを察した様だった。

「じゃあミカさん、また・・・。」
そう言って彼は足早に立ち去った。


「ミカ、乗って。」
ヨシアキは運転席から手を伸ばしていそいそと助手席のドアを開けた。
大きなドアが勢い良く開いて、塀にぶつかりそうになった。
「ちょっと待ってよ。」
私は咄嗟にドアを押さえた。

「待たない。早く乗って。」
「どうして・・・ 」

二人でごちゃごちゃしていると、後ろで足止めされた三人組がざわざわし始めた。
更に、彼の車の後ろからトラックが来ていた。

私は仕方なくヨシアキの車に乗り込んだ。
三人組の睨む様な視線をよそに、車は動き始めた。


「ミカ、会いたかった・・・。」

ヨシアキは前と私を交互に見ながら、とびきり嬉しそうに言った。

「喘息・・・ 大丈夫なの?」

「本気にしてたんだ。」
彼はけろっとしていた。

私は騙された、と思った。
「嘘なの?」

ヨシアキは真顔でそっと言った。

「嘘なわけないだろ。」


私はますます分からなくなった。



(続く)









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  ミニスカート   59 

川に沿って続く若緑の景色の中を、ヨシアキの車はひたすら黙って走り続けた。


「あなたは嘘つきだから、面と向かっては話しにくいわね。」

私が口火を切ると、ヨシアキは平然として言った。
「だから、あんなのと付き合ってんの?」

彼が圭一を気にするとは思わなかった。

「ばか言わないで。」
私は説明するのも面倒だった。


「あなたは・・・ 」
窓をぼんやり見ながら、私はゆっくり話し始めた。

「私にとっては実在しないのも同然だったから、あなたの言う事が嘘っぱちでも何でも成り立っていたの。
でも、あなたがこうして現実味を帯びて来て情報があやふやだと、あなたの事が疑わしくなっちゃうのよ。
・・・分かる?」


「分かるよ。」
ヨシアキは前を向いたまま答えた。

「俺にとってもミカは夢みたいなもんだったからね。嘘ついてでも、その夢を膨らませたかったんだ。」

溜め息をついて彼は言った。
「でも俺はミカが実在するかどうかなんて思った事ないよ。だから逢いたかったんだし・・・。
ミカは考え過ぎだよ。」

「あなたが複雑過ぎるのよ。」


いつの間にか景色は河口付近に変わっていた。
ヨシアキはテニスコートが何面かある広場に車を乗り入れた。

夕焼けに染まるコートの白いラインの色の具合が季節の移り変わりを教えていた。
最後に残った一組がボールを片付けていた。


皆、何を求めて生きているのだろう・・・。


私とヨシアキには、ある共通する部分が出来ていた。

それは求めたい何かがある様で、したい事があるようで、実は何も無いという点だった。


「もうそろそろ帰らないと・・・。」

「帰さないって言ったら?」
「言わないわよ。」


ヨシアキはハンドルに両腕を乗せて遠くを眺めていた。


私は彼の赤い横顔を見て、もう少しだけ二人で黙ったまま夕日に溶けていたくなった。



(続く)














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  ミニスカート   60 

「私、あなたに抱かれたい・・・。」

不思議な衝動に駆られた私は、自分が口走った言葉に驚いた。

ヨシアキはハンドルの上の両腕に顎を乗せたまま、黙ってじっとしていた。

あたりは徐々に薄暗くなり、赤く焼けた空は夜の群青に呑まれようとしていた。
ヨシアキの様子が見えにくくなった私は、彼の横顔にじっと目を凝らした。


彼は泣いていた・・・。

身じろぎもせず、息を殺して一人静かに泣いていたのだ。


私は何も言わず、ヨシアキの傍で暫らくじっとしていた。
長い沈黙で彼の悲しみにすっかり包み込まれてしまった私は、一緒に打ちひしがれ身動き出来ずにいた。


結局、ヨシアキはその日何も話さずじまいだった。
ただ、私は底無しの悲しさだけを受け取った。


そしてまた、彼は音信不通になった。


家では遅い私を心配する家族が待っていた。
職場の人達と話し込んで・・ というと、あっさり信じた。


メールを確認したが、当然ヨシアキからの連絡は無かった。

彼は車の中で、それ以上無いくらい悲しく沈んでいた。
私は彼のこれからを案じてメールを送った。


-私は何ひとつ分かってないのかもしれないし、何も出来ないのかもしれない。
 
 あなたと私の人生は平行線のままなのかな・・・。


 でもね、一人で悲しまないで。

 あの桜並木の川べりで、いつでも私はあなたを迎えるから・・・。-



私は一縷の望みをヨシアキに送った。
 


(続く)









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  ミニスカート   61 

「手作り弁当っすか?」

考え事をしていた私は、背後に圭一が近づいて来た事に全く気づかなかった。

「美味そうだなあ。」
そう言うと、彼は私の隣に腰を下ろした。

「あの人達のヒソヒソがエスカレートして来ちゃって。」
ヨシアキの一件以来三人組の噂話は派手になり、食堂に居辛くなった私は一人土手で昼食をとる様になっていた。

「この前の事?」
圭一も少なからずヨシアキの事を気にしていた様だった。

「そう。だけど彼女達は話に肉付けするから嫌なの。」

彼は笑いながら頷いた。

明るい日差しに映える緑と川面を撫でる風が清々しく、私はもう混雑した食堂で食事をする気にはならなかった。


「食べる?」
私は圭一に割り箸を差し出した。

「いいんですか?」
「たくさん作り過ぎちゃった。 どうせ、うどんだけ・・ とかでしょ?」

「はい、まあ・・・。 じゃ、遠慮なくいただきます。」
圭一は照れながらも嬉しそうに答えた。

私は暫らく彼が弁当を頬張るのを見ていた。
あたりは昼休み特有の静けさに包まれ、小鳥のさえずる声だけが高く響いた。


「まだ悩んでるの?」

「はい。」
圭一は缶コーヒーを口にしてから答えた。

「私もよ。 悩みは尽きないわね。」


ゆっくりコーヒーを飲み干すと、彼は話し始めた。

「あいつ、他に誰か好きな男がいるみたいなんです。」
圭一は辛そうに目を逸らした。

聞いてみると、彼女の心変わりはまだはっきりした訳では無い様だった。

「普段からまめに連絡してたの?」
「いえ・・ 不精なほうかな・・・。」

圭一ははっとして顔を上げた。

「やっぱり、まずかったっすか?」

「それは相手によりけりだし何とも言えないけど、彼女が寂しくなっていた事は考えられるわね。」
私は圭一の彼女に自分を重ねてみた。


人の心は柔らかく形を変えやすいものだと私は思っている。
それゆえに傷ついても自身で癒す力を持っている。

人は不変のものに安心を求めがちだが、例えば「結婚」という揺ぎ無い契約をもってしても人の心を縛る事は出来ない。


「結局、どんな事も最後は時間しか解決出来ないのかもしれない・・・。」

時は、良くも悪くも必ず全てに決着をつける。

圭一は深く溜息をついた。
私も一緒に考え込んでいた。


そんな事などそ知らぬ顔の川の水は、明るく乱反射して軽いリズムを刻みながら二人の前を流れ続けていた。


(続く)










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  ミニスカート   62 

「ふーん。 会っちゃうんだ。」

ひろかずは露骨に不機嫌な顔をした。
私は彼のそんな表情を見るのは初めてだった。


季節が逆戻りしたかのような冷たい雨の降る日曜日、私は久しぶりに彼と会っていた。

そのオリエンタルなムードのカジュアルレストランは、ランチするカップルで溢れていた。
私達は運よく白いカーテンに仕切られた、人気の半個室に通された。


「そうじゃなくて・・・。」
私は少しうろたえて言った。

「ほんとに彼女への贈り物を選んであげるだけだから。」

ひろかずに工場での仕事の様子を話すうち、私はうっかり圭一と会う事を言ってしまった。
彼と会う事に深い意味は無く、何の気なしに話していたのだった。

「俺なら一人で買いに行くけどねっ。」

いつもは穏やかなひろかずの言葉の端に強い語気を感じた私は、彼の気持ちを静めようとした。

「そうよね。実は私もちょっと迷ってたの。やめとくわ。」

ひろかずは安心したように微笑んだ。
私もほっとした。


食事の後、デザートはいらないと言うとひろかずは抹茶パフェを一つだけ注文した。

パフェが運ばれて来ると、彼はアイスをスプーンですくって私の口元に持って来た。
「いらない。お腹いっぱいなの。」
「いいから・・・。」

ひろかずは私の口にスプーンを押し込んで食べさせた後、自分もアイスを食べた。
「うん。うまい。」

彼は自分と私の口に交互にスプーンを差し込んだ。

(パフェは前戯なんだ・・・。)


アイスがひんやりと口の中に溶けて広がると、その後の甘い時間を感じて体の芯が熱くなった。




そして数日後、私は圭一と会った。



(続く)










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