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  ミニスカート   40 

祐樹とは、その後もメールの交換を続けていた。
私にとって彼は心おきなく何でも話せる大切な友人になっていた。

ヨシアキやひろかずとの事も、彼には全て話していた。

 
 ミカ、何か強くなったね。

メールしながら笑っている祐樹の顔が浮かんだ。

-そうかな。 一人で名古屋に行ったから?-

 そうじゃなくて・・・ 前は寂しがってばかりいたから。

確かに、私は以前ほど寂しいと思わなくなっていた。
心の持ちようが変わった気がした。


-結局、誰でも家族が大切でしょ?-

 割り切ったんだね。彼が家族と故郷に帰っちゃうからかな?
 まあ、僕も子供は無条件で可愛いし絶対守りたいもんね。
 夫婦の関係は冷えきっちゃってるけどね。

 だけど、もう一人は全然割り切ってないねえ・・・ 
 ミカに向かって突進して来る”特攻隊”みたいな奴だね。(笑)

-茶化さないで。
 割り切ったというのとはちょっと違うのよね。 
 上手く言えないんだけど・・・
 彼が帰っちゃうのは、悲しいけどほっとする・・ というのかな。
 もう一人の彼は、奥さんとよりを戻した方がいいんじゃないかと思うの。
 彼の体の事を考えると・・・-

 つまりは、すべてリセットしちゃうって事?
 じゃあ、チャンス到来!

 あらためて、僕と向き合ってみる?

 美味しくて眺めのいいお店、知ってるよ。


思いがけない事を言い出す祐樹に、私は唖然とした。

-何言ってるの?馬鹿言わないで。-

私ははぐらかしたが、一瞬二人で楽しそうに食事する場面が頭をかすめた。



そしてその夜、今度はひろかずのメールに驚かされた。

 ミカ、アパートを借りようかと思う。
 家族だけ帰して、俺は一人残る事にしたんだ。
 通勤が可能な範囲で出来るだけミカの近くで探すよ。


何かが根底から覆され、胸がざわざわした。


私の決心は、二転三転した。



(続く)













 

 
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  ミニスカート   41 

ある朝、鏡を見ていた私は自分の顔の異変に気づいた。

右目の目蓋が腫れ上がり、半分開かない状態だった。
眉毛の端も赤く膨れていた。
良く見ると、口角の部分にも発赤があった。

私はふと、前の晩に蚊に刺されたような蕁麻疹が足に出来ていた事を思い出した。

すぐ病院で検査を受けたが、はっきりした原因は分からなかった。

「強いストレスを受けるような事はありませんでしたか?」


家に帰ってからも、私は医師の言葉を思い返していた。

ヨシアキに会いに名古屋へ行った事は、私のキャパを超えるとんでもない冒険だった。
あの日私は疲れ果て、完全に電池切れしてしまった。

彼のその後の容態が気になる上に、ひろかずの件が加わって私は物事を考える余裕が無くなっていた。

それ以来、私は度々蕁麻疹に悩まされる様になった。


私は何もかもが面倒くさく思えて来た。
疲れて飽き飽きしていた。


夜寝る前、隣で眠っている主人の顔をあらためて見てみた。
そこには見慣れた寝顔があった。

この人が、おそらく私の”運命の人”なのだろう。
だから結婚したのだ。

ひろかずやヨシアキや、祐樹にも同じ事が言える。


私は暫らく主人の静かな寝顔をじっと見つめていた。



(続く)


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  ミニスカート   42 

どんなに恋しくても
どれほど胸焦がれても
熱い想いはやがて消えて無くなる。

ひき潮が砂浜に書いた文字を掻き消す様に
時がいつしか切ない想いをさらって行く・・・

”ひとえに風の前の塵に同じ”


・・ミカ・・・

寝返りを打った主人は一瞬起きた様に見えたが、寝言を言っただけで眠ったままだった。
目の前で寝息を立てている男とかつては恋人同士だった事を、私は思い出していた。
結婚して子供が生まれ、彼は私の恋人から夫、そして家族へと変わっていった。

私は結婚するまでに出会った男達を思い浮かべてみた。
片思いに終わった恋や肌を重ねた時の事など、それぞれに思い出があった。
でも、どの相手も直ぐに顔を思い出せなくなっている事に自分でも驚いた。
狂おしい程に好きになったと思えた人でさえ、名前のひと文字を思い出すのに時間がかかった。

疲れて立ち止まってしまった私は、今関わっている三人との行く末も見えて来る様に思えて悲しくなった。


私は前へ進めなくなっていた。



そんな私の背中を最初に押したのは、ひろかずだった。

 
 決めたよ。
 
 この先ミカとどうするのか、
 俺なりに考えてみたんだ。


彼の言葉は弾んでいて、勢いがあった。



それに対し、私は気後れして立ち止まったままだった・・・。




(続く)













 


 

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  ミニスカート   43 

-私が言うのもおかしいけど、私達はお互いに結婚してるのよ。-


自分の言う事が矛盾しているのは良く分かっていた。
でも、私は良心と理不尽な欲望の狭間で身動きがとれずにいた。

主人は私を裏切った事などない。
おそらくこれから先もないだろう。
私がしている事は、愛し合って結婚した主人の尊厳を傷つける事になる。

同じ理由で私はひろかずの奥さんをも傷つけ、踏みにじっているのだった。

今さらながら、私は自分がして来た事の結果に苦しんだ。


ひろかずはその事には直接答えなかった。
ただ、自分の”つもり”を話して来た。

 とにかく、こっちに一人で残る事にしたよ。
 会社に希望を出してたのが通ったんだ。

 家族もあっちに帰るつもりだよ。
 自宅も売れないみたいだし、子供の学校の事を考えれば早いうちに戻っといた方がいいしね。

 
あれこれ理由をつけるひろかずだったが、彼の真意は他にある様な気がした。


 ミカがどう思うかは分からないけど、俺はミカと長く一緒にいたいと思ってるんだ。
  
 ずっと先の事まで考え始めているんだ。


少し前なら、涙が溢れ出しそうな程嬉しいひろかずの言葉だった。


でも、その時の私には彼の気持ちを真っ直ぐに受け止める事は出来なかった。


私は自分の心の変化について行けず、迷ってばかりいたのだった。



(続く)








 

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  ミニスカート   44 

私は祐樹に胸の内を明かしてみた。
彼との気楽な距離感が、その時の私にはちょうど合っていた。

 
 結局ミカがどうしたいのか、 なんだけど・・・
 それが分かれば悩まないよね。

祐樹はいつも真剣に私の話を聞いてくれた。

 どっちにしても、そんなストレスのかかる関係はやめにして僕にすれば?
 って、それもまたストレスになるのか・・・


彼は私が返信しなくてすむ様に、独り言のメールで励ましてくれた。

私は祐樹のメールを読むと、不思議にほっとした。


-私、もうミニスカートなんか履いてないで「物体」になろうかなあ・・・。-

物体とは祐樹がよく使う表現で、女としての体裁を構わないどっしりとした体型の中高年女性の事を指していた。

-そのほうが、気がラクかも・・・。-


 それはダメだよ。 
 ミニスカあってのミカじゃないか。

 絶対、物体、反対!

私は可笑しくて、一人大笑いして気分が晴れた。

-ありがとう、祐樹。 元気になってきた。-


ちょうど桜が見頃の季節にさしかかっていた。


 桜を見に行こうよ。

祐樹の誘いに、私は素直に従った。
初めて会って話すのだという事を忘れてしまうくらい、自然な成り行きだった。


もしこの先も私が「物体」にならなければ、私の傍には必ず誰かが残る・・・

私はふと、そんな気がした。
その相手はひろかずなのかヨシアキなのか祐樹なのか、あるいはこれから出会う別な人物なのか・・・
案外今の主人だったり・・・。


そう遠くはない私の老後は、”誰かと二人”の様相を呈してきた。



(続く)



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