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  ミニスカート   1 

その日の早朝、私のPCにメールが入った。 

 主人は喘息のため入院しました
 
 お約束していたようですが行けません

ヨシアキの携帯からだった。私は一瞬、訳が分からなかった。
数時間後に彼と落ち合う事になっていたからだ。
新幹線を利用し、遠路会いに来てくれる事になっていた。

奥さんが知った?
それともヨシアキの工作?
頭の中で憶測が駆け巡る。 胸がざわついた。

思えば年末に

 ミカ  風邪ひいた とか、
 
 ミカ  熱出た

といったメールの後、年明けまで彼からの連絡が途絶えていた。
てっきり風邪が治って、箱根で家族とのんびりしているのだろうと思っていたのに・・・。

(喘息だったんだ・・・。)

私は急にヨシアキの事が不憫になった。そんな体で、四時間以上かけて私に会いに来るつもりだったのだろうか・・・。
彼に会う事に期待はしていたが、不安もあった。


なぜなら、私はまだヨシアキに一度も会った事が無かったのだから・・・。




(続く)









                                            
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  ミニスカート   2 

-東京駅で火事があったみたいだけど、大丈夫?-

 大丈夫

 明日はミニスカート?
 その下は?

 どんな事してくれる?

-ばかっ-

私はヨシアキとの前夜のメールのやりとりを思い出していた。

-気持ちが無いと、乗らない・・・-

 キスする


それが彼の最後の言葉だった。

-自信があるんでしょうけど・・・
 
 キスであなたの心を探るわ-


私のメールにヨシアキからの返信は無かった。

時計の針は午前零時を回っていた。



キスをしたいとヨシアキはよく言っていた。
キスに自信がある、とも・・・。

 失神したやつもいる

自慢げな口調に幼さを感じ、私は少しずつ彼を愛おしく思い始めていた。



そもそも最初の頃、私はヨシアキにあまり関心が無かった。
寂しさと混乱の中にいた私は、誰かに救いを求めていた。

彼とはメル友を募集する目的のサイトで出会った。
内部でメール交換出来るというサイトだった。
とにかく話し相手が欲しかった私は、そこで何人かとやりとりをしていた。

私がサイトに登録してから二日程経った頃、ヨシアキがメールして来た。

 年下はうざい?


「元気」というプロフネームの彼は、無邪気に聞いてきた。
早速プロフィールを見てみると、

( 関東住み  34歳 男 )

としかない。

十歳以上年下なんてね・・・。 めんどくさい。


私は悪いと思いながらも、ヨシアキを無視する事にした。



(続く)







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  ミニスカート   3 

その頃の私はとにかく落ち着きたかったし、寂しさを紛らわしたかった。
毎日時間を見つけてはPCに向かい、面識の無い相手と話をした。
そうしないと不安だったのだ。

横浜で美容院を経営しているという、年上の男が話を聞いてくれた。

 それで、いきなりヘンなメールが来ちゃったわけ?
 ダンナと実家のお父さんの携帯に?

-そうなの。実家には電話もかかって来たのよ。
 私の男友達の名を名乗って、娘さんはおられますか?って。-

 彼は番号知ってたの?

-まさか。 旧姓も教えてないし。
 第一、主人や父のメアドを知ってるなんて・・・。
 気味悪いでしょう?-
 
私の実家にはそれ以降もしばらく無言電話が続いた。

電話の主は、おそらく祐樹本人だったに違いない。
恋人に会えなくなって沈んでいた私を、ずっと励ましてくれていた祐樹。
銀行員の彼は、忙しい仕事の合間にメールを送り続けてくれていたのだ。

祐樹の優しさで、少しずつ私も元気になっていた。

そんな矢先の突然の出来事だった・・・。


(続く)







 

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  ミニスカート   4 

ある日の夜遅く、二階の廊下の電話が鳴った。
「はい、もしもし。」 私が出ると、
-もしもし・・・ ミカ?-
実家の母からだった。

時間が遅い事と、不安げな母の声に私は少し緊張した。
「どうしたの?こんな遅くに。」
-誰か近くにいる?-

周囲に誰も居ない事を告げると、母は慎重に切り出した。
-あなた達、夫婦仲はどうなの?-
思ってもみない問いかけだった。私は訳が分からないまま答えた。
「どうって・・・。別に普通だけど・・・。」
結婚十九年目で娘がおり、夫婦の間に大きな喧嘩も無かった。

「何でそんな事聞くの?」
一瞬黙ってから、母は思い切るように言った。
-おかしなメールが来たらしいのよ・・・ お父さんの携帯に。-

まだ何の事か分からなかった私だったが、母の口から出た名前に凍りついた。
-祐樹って人、知ってる?-

祐樹・・・ どうして母が・・・?

「・・・知らないけど?」
私は動揺を抑えながら、出来るだけ勢い良く答えた。

-ほんとね。本当に知らないのね?
 お父さんからは、ミカには話すなって言われてるんだけど・・・ 
 心配になって・・・。-

母によれば、数日前父の携帯に届いたメールの中に私と祐樹の親密な会話があったらしいのだ。
父は驚いたが、私には知らせるなと母に言ったそうだ。
ところがその翌朝、今度は祐樹と名乗る男から実家に電話がかかって来た。

「ミカさんはいらっしゃいますか?」

男の話し方はきちんとしていて、声からすると三十歳代後半位だったという。
不在だと母が言うと、私はよく実家に帰るかと聞いてきた。
滅多に帰らないと告げると、そうですかとあっさり切ったそうだ。

それから頻繁に無言電話がかかって来て、母は不安になり私に電話して来たのだった。


どういう事なんだろう・・・。

私の頭の中に、大きな疑惑の渦が巻き始めた。



(続く)





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  ミニスカート   5 

実家への無言電話は初めのうち、決まって朝の八時前後にかかってきた。
祐樹がいつもメールして来た時間だ。
そのあとは夕方と夜遅く・・・ これも時間が合っていた。

問題のメールが父に送られて来た頃から、祐樹の様子が少しおかしいとは感じていた。
理由も無くメールが途切れる様になっていたからだ。
それまでは毎日欠く事無く、ほぼ決まった時間に届いていた。

それにもう一つ、気になる事があった。
父に送られて来たメールと同じものが、主人のPCにも届いていたかもしれないのだ。
ある時主人が、
「また迷惑メールだ。ユウキって誰だよ・・・。」とぼやきながら、そそくさとそれを削除していた事があった。
気になって見に行くと、既にそのメールは消えていた。
主人は私の名前がある事には気づいていなかった。

祐樹がした事なのだろうか・・・。
でも、何故? 
どうやって?


色々考えた末、私は思い切って彼に聞いてみた。

-祐樹、私の実家に電話した?-

何時間後かに返信が届いた。

 出来るわけないよ。
 番号知らないもん。自宅も実家も。


・・・自宅も知っているという事なのだろうか。
どうしてとか、どうしたとかは無いのかとも思った。
それまでの祐樹なら、心配してあれこれ対策を考えてくれるはずだった・・・。

メールの件も話し、不安症になっているのだと言ってみた。


それから間もなく、祐樹からのメールは完全に途絶えた。

アドレスも変えた様だった。


(続く)







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